
アンドレイ・クルコフ (著)
新潮社
ヴィクトルは売れない物書き。憂鬱症のペンギンを動物園から引き取って暮らしています。一人と一匹は孤独です。あるとき、持ち込んだ原稿が「首都報知」編集長の目にとまり、極秘の仕事をもらいました。それはまだ生きている人の「追悼文」を書くこと。有名人のそれを書きためるのです。いつか日の目を見る(新聞に載る)、と信じてはいても匿名だし、おまけにみな元気でぴんぴんしていそう。まあ、原稿料は入るしいいか、と日々を送ります。「ペンギンが喜ぶことをしてやりたくなり」、バスタブに冷たい水を張ったり、思い立って生きた魚を買ってきてバスタブに放したり。「ミーシャ(ペンギンの名前)は憂鬱そうに眺めている」。「そうか、淡水魚は駄目か」。今日は凍ったドニエプル川にピクニックに繰り出そう・・・。
ソ連が崩壊し、昔のようにモノが手に入りにくくなったウクライナでは、ときおり銃声が響き、死は身近なもの。そしてついに「追悼文」を書いた人たちが次々と死んで・・・。ヴィクトルの周りにも不穏な陰がちらつきはじめます。隠された謎、ヴィクトルの運命は、そしてペンギンは・・・。
「ペンギンの憂鬱」は本国よりむしろヨーロッパで盛んに読まれ、ウクライナの作家 アンドレイ・クルコフはロシア語で小説が書ける最高の作家と賞賛されました。なによりペンギンを登場させたことが物語を成功させたとも言えるでしょう。
クルコフがペンギンを登場させたきっかけとなったのは、ある小話だそうです。紹介しましょう。
警部が車で街をまわっていると、警官のペトレンコがペンギンを連れて歩いているのに気がついた。警部は車を止めて言った。
「何をしているんだね。すぐにペンギンを動物園へ連れていきたまえ」
「わかりました」とペトレンコ。
こうしていったん別れたが、2時間ほどすると、別の場所でまたペトレンコとペンギンに出くわした。警部は怒って、どなった。
「さっきペンギンを動物園へ連れていけって言っただろ?!」
すると警官のペトレンコはこう答えた。
「動物園にはもう連れていきました。映画にも行きました。これからサーカスに行くところです」
どうです? 読みたくなったでしょう?
中学生には少し難しいかもしれませんが、是非手に取ってみてください。
2005.03.29 (に)(月刊サクラ2005年1月号より)